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まったきを得ず

昔となりの家にある男がすんでいた
男は人形師でひたすら女の人形をつくっていた

近所の人たちは
人形に埋もれて暮らしていることしか知らなかった
誰も知りたいとは思わなかった
その家は母親たちの間で危険地域に認定されていた

ある日その家にひとりの男が訪れた
男はその家に入るなり
これを私に売らせてくださいと頼んだ

人形師は
これは売り物ではないし 売るためにつくるのではない
と断ったという
男は暇があればこの家に通い続けた

何日かして
人形師が投げやりに承諾すると
男はすぐさま自分の店で売りさばいた
注文が殺到して在庫はなくなった

男が再び人形師の家に行くと
住人はおらず
書き置きだけが残されていた

 なんだかんだ言っても
 結局はまがい物か

書き置きにはそう記されていた
その後の行方は誰にもわからない

ただ
風の噂で
人形づくりをやめて結婚したという話を聞いた
大人たちは卑猥な話で盛り上がった

僕はといえば
彼の考えていたことが
少しわかったような気がした


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